明海の母「それで明海が納得するなんて納得できません」
あすさん「いいシャレですね」



いつの間にか体調がよくなっているあすさん。
まずは明海の母を納得させる必要がある。



あすさん「波風の立たない展開はありえないと考えるべきです」
明海の母「…それは、たしかに、ずっと順調なことなんてないけれど……」
あすさん「海や川の堤防を高くすれば水害は防げる、と昔の人は考えたのです」
明海の母「そうですね」
あすさん「しかし現実には、堤防を越える水が押し寄せることもありました」
明海の母「それで……決壊した、と……?」
あすさん「そうです。高くするだけではだめなのです」
明海の母「ではどうすれば……」
あすさん「地震に強い建物についても考えてみてください」
明海の母「耐震構造……」
あすさん「揺れに耐える。とにかく耐える。家を揺らさないぞ! という発想ですね?」
明海の母「そうです」
あすさん「しかし現実には、揺れに耐えようとしたために逆に建物が崩壊することがありました」
明海の母「……なるほど……」
あすさん「揺れにあわせて建物も揺れる構造にし、地震のエネルギーを穏やかに逃がす工夫をしたほうがいいのですよ」
明海の母「ということは……」
あすさん「堤防の話に戻すと、高さよりも奥行きのある構造にし、水があふれても穏やかに流れるようにするのです」
明海の母「そうですか…。なんでもガチガチに固めればいいというわけではないのですね」

あすさん「教育でも同じです。四六時中ずっと先生がついて授業をすればいいというものではありません」
明海の母「息抜きも必要………」
あすさん「内容の詰め込まれた教育は効率が悪いばかりか、実際に成果を上げられないことも多いのです」
明海の母「でも、それであすさんの仕事が終わってしまうなんて……」
あすさん「このくらい大げさに切り出さなければ、明海の母親であるあなたに理解してもらえないと思ったからですよ」
明海の母「えっ……と、いうことは……じゃあ……??」
あすさん「私はどこへも行きませんよ」
明海の母「……よかった……」
あすさん「ただ、少し大げさに演出しておかないと、事の重大さが伝わらないまま次に進んでしまうことになりかねないので」
明海の母「明海の態度の変化が、それほど大きなものだったということですか…」
あすさん「学校で初めて友達ができたとすれば、明海にとっては非常に大きな変化になるはずです」
明海の母「よくわかりました…」


適当に説明し、明海の母を納得させることに成功した。

すると、執事がものすごい勢いで二人のところへ走ってきた。


執事「奥さま!!大変です!!」
明海の母「どうしたの?」
執事「明海さまが…病室におられないのです!」
明海の母「トイレとか、食事に行ってるんじゃないの…?」
執事「っは……」
あすさん「…そんなに動けるほど回復しているのだろうか…」