月謝300万円という破格の家庭教師。
あすさんによる初めての授業が行われることになった。
広すぎて落ち着けない明海の部屋での個人授業は、どんな内容で執り行われるのだろうか。


明海「センセー、質問でっす!」
あすさん「い…いきなり質問? 何でしょう?」
明海「センセーのフルネームって何ですか?」
あすさん「アセチルサリチル酸……」
明海「ほんとに~?」
あすさん「もともとバイエルアスピリンは登録商標だったのだが、現在ではアスピリンは普通名詞になっている」
明海「アセチルサリチル酸って?」
あすさん「ステロイドではない抗炎症薬の一つで、痛みや発熱や炎症の治療に用いられる代表的な医薬品だ」
明海「どこにあるの?」
あすさん「バファリンは知ってるかな?」
明海「半分がやさしさでできている……」
あすさん「そう。それに含まれている」
明海「半分?」
あすさん「いや、質量比でいったら半分以上がアスピリンだ」
明海「半分以上があすさんでできている、ってこと?」
あすさん「そう思っていいかもしれない」

明海「なんであすさんはaspirinって名前なの?」
あすさん「うーむ…本当のところは自分でもよくわからないんだ…」
明海「適当につけたとか?」
あすさん「実はマビノギに最初に作成したキャラクターはaspergerという名前で、スキルを適当に上げて失敗してしまった」
明海「ほっほー」
あすさん「次にalbuminという名前のキャラクターを作ったものの、これもメインにはならなかった」
明海「へぇー」
あすさん「次にaluminaという名前のキャラクターを作り、2回ほど転生して育てたのだが、これもメインにはならなかった」
明海「えー!?何がいけなかったの?」
あすさん「まぁ続きを聞いてくれ。私は最初、複数のキャラで役割を分担していこうと考えていた。
 最初のaspergerはギルドマスター、2番目のalbuminは弓、3番目のaluminaは近接…という具合にね」
明海「ふむふむ」
あすさん「それで4番目となるaspirinを作成し、ハーブ豚を購入して薬草学と調合を担当しようとしたんだ」
明海「ふむふむふむ」
あすさん「当時も今もあまり変わらないが、弓や近接の攻撃スキルよりも、生産スキルのほうが苦労するだろう?
 albuminのレンジアタックやaluminaのウィンドミルよりも、aspirinの調合のほうがはるかに大変だったんだ。
 桁違いに手間がかかって、もっとも使用時間の長いキャラになったため、結果的にメインになってしまったわけなんだ」
明海「なるほど!!やっぱり育てる手間のかかる子ほど愛着が沸くもんね!」
あすさん「薬草学も調合もIntとDexが上昇する。魔法と弓に影響する重要なステータスということなので、
 これはもう手間をかけた分だけ強くなると信じて、aspirinをメインにしようと決意するに至った」
明海「そうなんだ~! でも、なんで名前がaspirinなのかという説明にはなってないね」

あすさん「初めのキャラはすべて頭文字がaで統一されている。これは大した問題ではない。
 しかし、アスペルガー、アルブミン、アルミナ、アスピリンの中で、よく知られている単語はアスピリンだ」
明海「たしかに。ほかは知らないなぁ~」
あすさん「ところが、意図的にアスピリンをメインにしたつもりはまったくないんだ。
 たまたま習得したスキルと、ランクアップの手間が特に大きかったキャラがアスピリンだったというだけであって、
 初めからメインになる予定があったわけではないのだよ」
明海「でも、その4つの名前だったら、アスピリンが一番よさそうっていうか、親しみやすそうに聞こえる」
あすさん「そうなんだよ。もし私のキャラが別の名前だったら、おそらく、あすさんではなかっただろう…」
明海「……たしかに! あすさんっていうイメージじゃなくなっていたかも……」
あすさん「だから、たまたまそうだった、としか説明のしようがないんだなぁ…」
明海「aspirinさん、すごいです!最高です!」


あすさんのあまり知られていない真実を聞いた明海は興奮し、しばらくアイバのようになった。


あすさん「さて…自分語りはこのくらいにして、ちゃんと授業を始めるとしよう」
明海「aspirinさん、すごいです!最高です!」