マナビノギ

マビノギハァンタジーライフ

樹齢400年といわれるあすさんが引きこもりになって150年。
ずっと家にいて、光合成のために庭を歩く以外はマビノギに夢中になる毎日。
それが今、明海にそそのかされて重い腰を上げ始めたのであった。


明海「あすさんの都合のいい日はいつ?」
あすさん「今すぐでも」
明海「( ゚∀℃( `Д´)マヂデスカ!?」
あすさん「善は急げっていうだろう」
明海「急がば回れじゃないの?」
あすさん「では後日にしよう」
明海「ちょおあsだkldksldかfj;だsdj;うそうそ;;今すぐでいいの?」
あすさん「そっちに問題がなければ」
明海「( ・∀・)b OK! それじゃあ悪いけど、片道の運賃だけは用意してね!」
あすさん「これがもし冗談だとしたら、片道切符か…………」
明海「そんなこと絶対に(ヾノ・∀・`)ナイナイ」
あすさん「行くお♪ε= ε=ヘ( ^ω^)ノ テケテケ」
明海「バッチコ━━━щ(゚Д゚щ)━━━ィ」



冬の昼は短い。
あすさんが家を出ると周囲はすでに真っ暗であった。

冷え性の手をさすりながらバス停に向かう間、時計と夜空の様子をずっと気にしていた。
この見慣れた空の下へ無事に戻ってくることができるのだろうか──


バスは時間通りにやってきた。
いつものことながら、バスには誰一人として乗車していない。
運転手さえも。
といいたいところだが、この時代にはまだ全自動のバスは存在していなかった。


女子高生「でさーでさー、それが超ブサメンなんだって~」
女子高生「まじで~? ちょいググってみよっかな~」
女子高生「美人すぎる○○とか、イケメン○○とか、フッザケんじゃねー!!真面目にやれ!!って感じだけど」
女子高生「うわ、キモ。これなら早退職員のほうが100倍マシだわ」

無人のバスでどうして女子高生の話し声が聞こえるのか不思議だが、
ただあすさんが後ろのほうの座席に気づかなかっただけというのが有力な説である。

あすさん「(やれやれ……もし私が明海の言うようにイケメンだとしたら、ブサメンはこの世に存在しないだろう……)」

女子高生「んでさ~、プリクラの顔を思いっきり加工してみたわけよ」
女子高生「うっわ~キモーイ! でもキモイけど見入ってしまう~~」
女子高生「キモイもの見たさってあるよね~」
女子高生「誰得」
女子高生「きんもーーーっ」
あすさん「(そんなにキモイキモイ言わなくてもいいのに……っと…やばい…目が合った……)」

あわてて前を向いて座り直すあすさん。

女子高生「……」
女子高生「どした?」
女子高生「なんか今……」
女子高生「ん? なんか見えたの?」
女子高生「いや……ひょっとしてひょっとするとなんだけど……」
あすさん「(ひぃー……例外なくキモイキモイ言われる……)」

あすさんは走行中のバスの窓を開けて外に逃げ出したくなった。
後続の車と対向車にはねられ、体は原形をとどめぬほどに飛び散るであろう。

女子高生「(……ちょっと試してみるよ)」
女子高生「(え? なにすんの?)」
女子高生「(いいからいいから。…よし…)」

女子高生が携帯電話をあすさんのほうに向けると、


「デデーン!」

エンチャント失敗の効果音が鳴り響いた。


あすさん「この音は!!」
女子高生「プゲラゲラゲラ…」
女子高生「誰!?」
女子高生「aspirinさん、すごいです!最高です!」
女子高生「マジで?」
女子高生「あ!aspirinさん、お会いできて嬉しいです~!」
あすさん「ど、どうも……」
女子高生「なんだってえええええええ!」
あすさん「いきなり背後でデデーンって……」
女子高生「この音に反応するのはaspirinさんしかいない!」
女子高生「すげええええええええええええええ」
女子高生「aspirinさん!!サインください!!」
あすさん「いきなりクレクレですか……」
女子高生「サイン二つお願いします」
女子高生「もう制服でもカバンでも好きなところに書いちゃってください!」
あすさん「いや…それは普通にヤバい……」
女子高生「ギャハハハハハハハハハハハハ」
あすさん「じゃあ、このノートの…」
女子高生「うんうん」
あすさん「余白にでも」
女子高生「表紙に書いちゃってくださいよ~」
あすさん「そうですか、カキカキ……」
女子高生「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
あすさん「こちらにも、カキカキ……」
女子高生「きたああああああああああああああああああああああああああああああ」
あすさん「下手な文字で悪いけど…」
女子高生「おらっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああ」
女子高生「あざーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっす!!!!!」

あすさん「驚いた……こんなところでマビノギやってる人と会うなんて……」
女子高生「こんな時間にどこへ行くんですか?」
あすさん「急用で………」
女子高生「あっ……どこか具合が悪いんですか…」
あすさん「私じゃなくて……」
女子高生「なんか道が渋滞してますね。まだだいぶかかりそう…」
あすさん「本当は急いでいるわけではないのですがね……」
女子高生「駅までですか?」
あすさん「いや、うんと遠くまで」
女子高生「ええ!!aspirinさんが自力で遠出するなんて………」
女子高生「天変地異の前触れじゃない!?」
女子高生「どうしよう………」
あすさん「あの…………」
女子高生「aspirinさん…うちらはついていけませんけど……どうかご無事で…」
女子高生「これ、ゴクッと飲んじゃって! 飲みかけの蜂蜜ドリンクだけど…」
あすさん「あ、ああ、ありがとう……」


あすさんは女子高生に励まされたが、かえって困惑した様子であった。
飲みかけの蜂蜜ドリンクに手をつけるなど……。


渋滞のため、バスは少し遅れて駅のターミナルに到着した。

女子高生「それじゃ、aspirinさん、これからも応援してます!!」
女子高生「ハァンタジーライフの更新が楽しみです!」
あすさん「応援をどうもありがとう」
女子高生「またね~!」
女子高生「おやすみなさ~い!」
あすさん「(……ブログはしばらく更新できなくなる恐れがある……)」

あすさんがバスの降り口で料金を支払った瞬間、

運転手「aspirinさん、すごいです!最高です!」
あすさん「ええぇ!?」
運転手「すみませんが、私にもサインをお願いできますでしょうか……」
あすさん「はあ……」

あすさんは大きな選択を迫られた。

明海の将来を決めることであるとともに、自分の立場を大きく動かされる問題に直面してしまった。
単なる釣りかもしれない。
実際に会ってみるまではわからない。
もはやお手上げである。


あすさん「住んでいる地域によるぞ…」
明海「樽帝院駅からすぐだよ」
あすさん「知らない地名だ……」
明海「新幹線で直行できるよ」
あすさん「ずいぶん遠いな……」
明海「大丈夫大丈夫! 来てくれたらあたしが全額負担するんだから」
あすさん「………負担してくれなかったらどうする…」
明海「信用できない?」
あすさん「さすがに…これは……」
明海「分割金利・手数料は明海が負担!!!!!」
あすさん「金額の問題ではなくて……」
明海「わかった。自分の家から離れるのが心配なのねwwwwww」
あすさん「∑(゚∇゚|||)はぁうっ!」


明海のほうが一枚上手──
そう考えてみると、むしろあすさんのほうが明海に妙な期待感を抱いてしまうようである。

引きこもりになって百余年。
自分の重い腰を持ち上げる機会になるかもしれない…と思うと、明海の提案からは引き下がることができなかった。


明海「(´・△・`)アーア…影世界の英雄、aspirinさんに会えると思ったのになぁ(´・ω・`)ガッカリ・・・」
あすさん「そんなタイトルはどうでもいい…」
明海「イケメンのあすさんを一目見たかったなぁ(´・ω:;.:...」
あすさん「(°д ゚)ハァ?」
明海「きっとピンクの衣装をかっこよく着こなしてるんだろうなぁ(´・ω:;.:...」
あすさん「なんという妄想……」
明海「(/ω・\)チラ」
あすさん「(´∩ω∩`)」
明海「モォ─ヽ[*`Д゚]ノ─!!!あすさん来てよ~~~~~《゚Д゚》ゴラァァァァァァァァァァァァア!!」
あすさん「●:・∵;(ノД`)ノ ヒイィィィ」
明海「あすさん! あたしだってあすさんの将来を心配してるんだからね!!」
あすさん「( ´゚д゚`)ぇーーー」
明海「あたしの誘いに乗らなかったら、次はいつチャンスがあるかわからないよ?」
あすさん「(´゚д゚`)」
明海「いいじゃない! あたしも救われるし、あすさんも救われるんだよ!?」
あすさん「(。-`ω´-)ンー…別に私は困っていないけど…」
明海「今はいいかもしれないけど、将来はどうするの?」
あすさん「私に将来などないのだよ」
明海「それじゃああたしの将来もないのと同じじゃない…そのくらいわかってよ…」
あすさん「ゥ─σ(・´ω・`*)─ン…」
明海「あすさんの協力が必要なの。あたしがあすさんを必要としていることくらいわかってるでしょ?」
あすさん「( ゚ω゚)フム」
明海「ほかの人は100%否定するだろう、って言ったじゃない。それなのにあすさんはあたしを見捨てる気? 無責任すぎるよ…」
あすさん「(;゜〇゜)……」
明海「あすさんが信じてくれなかったら、誰があたしを信じてくれるの……」
あすさん「なるほど……」
明海「(´・ ω ・)……」
あすさん「…………わかった」
明海「( ゚Д゚)ハッ!」
あすさん「ご両親は何と言っているのかね?」
明海「もうお金用意して待ってる」
あすさん「何━━━━ヽ(゚Д゚ )ノ━━━━!!!!」
明海「お母さんには、あすさんのこと家庭教師だって伝えといた」
あすさん「ちょ、ちょっと待て!!!!!この話はどこまで飛躍していくんだ!?!?!?」

明海は、あすさんに対して期待しすぎることはなかった。
あすさんはあくまで「助言を与える機械」にすぎず、問題を解決するのは機械ではなく自分だ、と思っているからだ。
この冷淡すぎるほどの合理的な思考により、明海はすぐに立ち直ることができるのである。


明海「高校進学していないあすさんには、やっぱり難しいのかな…」
あすさん「難しいもなにも、高校という時点でお手上げだよ。私の守備範囲を完全に超えている」
明海「ゥ─σ(・´ω・`*)─ン…」
あすさん「明海が自分の力でどうにかできるのが一番いい」
明海「(。-`ω´-)ンー」
あすさん「私が解決したらおかしいじゃないか」
明海「それもそうだね……なんで他人が……って……」
あすさん「しばらく考えてみるかね?」
明海「……待って……」
あすさん「あわてることはない」
明海「待って、あたしには無理……今のままで学校に行けるとは思えない……」
あすさん「そのことも含めて、しばらく考えてみるといい」
明海「あすさんも考えて」
あすさん「∩(・∀・)∩ モウ オテアゲダネ」
明海「真面目に考えて」
あすさん「真面目に考えたら∩(・∀・)∩ モウ オテアゲダネ」
明海「最後まで面倒みてよ……」
あすさん「( ゚д゚ )」
明海「本気のあすさんを見せてよ」
あすさん「Σ(;´△`)エッ!?」
明海「いつも手を抜いてるでしょ…」
あすさん「Σ(゚Д゚;エーッ!」
明海「…わかるよ、とぼけても」
あすさん「Σ(゚д゚) エッ!? オヨビデナイ!?」

明海「あすさんはいつも1%の力しか発揮してくれない…」
あすさん「(ヾノ・∀・`)ナイナイ」
明海「本当はあと99%の力が眠ってる……」
あすさん「ネ━━━━(゚д゚;)━━━━!!」
明海「あたしってそんなものだったのね」
あすさん「いやいや…明海の高校生活に関しては、私はこれ以上は何もしてあげられないぞ?」
明海「…………………」
あすさん「助けてやりたいよ。でも、どうやって? まさか一緒に登校しろと?」
明海「そんなの無理に決まってる…」
あすさん「仮にそんなことを実行したとしても、明海を助けていることにはならないはずだ」
明海「でも! あすさんなら! 何とかしてくれると思うじゃない!」
あすさん「違う。何とかするのは明海自身だ。私はただアドバイスやヒントを与えることしかできない」
明海「あたしにはぜんぜん足りないのよ」
あすさん「……それを私が満たしてやることは不可能だよ…残念だけど…」
明海「あすさんにはできない?」
あすさん「できない」
明海「…………………」

あすさん「私にできるのなら、とっくに何とかしているよ。間違いなく」
明海「……どうしてそんなにバカ正直なの……」
あすさん「真面目に考えるからこうなるのだよ」
明海「真面目…………」
あすさん「私も経験上、真面目に考えるだけでは行き詰るということを知っている。
 不真面目に考えたとしても、すぐに答えが見つかるわけでもないということも…」
明海「それはあすさんの1%の力ではないのね?」
あすさん「100%でこの程度だ。これ以上の力を出すには、別のものが必要になる」
明海「別のもの?」
あすさん「私以外の力だ」
明海「どんなもの?」
あすさん「私以外の力だったら何でもいい」
明海「あたしの力でもいい?」
あすさん「もちろん」

明海「じゃあ、こういうのはどう?」
あすさん「( ゚ω゚)フム?」
明海「今からあたしのところへ来て」
あすさん「(´゚д゚`)」
明海「来れる?」
あすさん「(´゚д゚`)」
明海「あたしの力で来てって言えば来てくれる?」
あすさん「本気で言っているのか? 本気だとしても…」
明海「無理? なぜ? お金がないから?」
あすさん「…………そのとおり…………」
明海「あすさんの力では無理ってことでしょ? でもあたしの力を使ったらどうなの?」
あすさん「どうするつもりだ……」
明海「あたしが運賃を出す。といっても親に頼むんだけど」
あすさん「待て……悪循環だ……」
明海「信じてもらえないかもしれないけど、あたしんち金持ちなの。あすさん一人を呼ぶのに困ることなんてないの」
あすさん「(;・`д・´)な、なんだってー!!(`・д´・(`・д´・;)」
明海「あたしはあすさんを信じてるよ」
あすさん「 ゚д゚ 」

あすさんは信用できる。
信用できるだけの何かがある。
その正体はわからないけれど、信じてよいという確信がある──

明海はそう思ってあすさんを信用し、学校で味わった苦痛を打ち明けた。




あすさん「それは…苦痛だ…」
明海「気にしないつもりでいたのに、もう学校へ行けなくなって……」
あすさん「明海が悪いわけじゃない。トイレに紙がなかったのが悪いんだ」
明海「先生にさらし者にされるなんて……あたしはもう一生バカにされる…」
あすさん「次の日から、自分の意思で学校を休むようになったわけだね?」
明海「どうだったか…わからない…体が…本能的に避けている…」
あすさん「ヽ(・ω・`)ヨシヨシ…明海の判断は正しい。それでよかった」
明海「でも………」
あすさん「今、こうして打ち明けるまでは、誰にも相談できなかったんだよね?」
明海「相談できる人なんているわけないじゃない…」
あすさん「そうか。だから明海の判断は正しかったといえる。後悔しなくてもいい」
明海「なぜ? そんなふうに言われても……」
あすさん「明海は人に相談しなかったのではなくて、することができなかったんだ。
 そのような状況で正しい判断を下すことは不可能に近い。
 だから今は、その判断が正しいのか間違いなのかを考える必要はないんだ」
明海「そっか……」
あすさん「誰かに相談したら、100%間違っていると言われるだろう」
明海「絶対そう言われるのに……あすさんは言わないの?」
あすさん「言わない。言っても意味がない。明海のためにならないからだ」
明海「あたしのため……」
あすさん「学校へ行けなくなったのは、行けばそこにいる人たちから否定されることがわかっているからだろう」
明海「うん………」
あすさん「そんなところへ行ったら、明海はますます苦境に追いやられることになってしまう」
明海「……………」
あすさん「私は、学校が間違っているとか、学校へ行ってはいけないと言っているのではない。
 今の明海にとっては、学校へ行くことが非常に危険であるということを言いたいのだ。
 だから、明海の判断は正しい。決して間違ってなどいないから、安心してほしい」
明海「あすさん……」
あすさん「むしろ私が、平日なのに明海がマビにいるということを疑問に思わなかったのがいけなかった」
明海「あすさん…そんな…もういいよ。それ以上言わないで。あすさんが悪いことになっちゃう…」
あすさん「ヽ(・ω・`)ヨシヨシ」
明海「どうしたらいいんだろう………」

ようやく落ち着きを取り戻した明海は、今後の自分の振舞いについて考えることにした。


明海「あすさんは、あたしのこんな話に付き合っていて大丈夫なの?」
あすさん「大丈夫、とは?」
明海「あすさんだってやることはあるでしょ。こんな余裕があるの?」
あすさん「やることがあるもなにも、これが私の仕事だからね」
明海「Σ(;´△`)エッ!?」
あすさん「あぁ、当然のことをしているだけだよ」
明海「あすさんの仕事?」
あすさん「そう。仕事みたいなものでしょ」
明海「ふーん……」

あすさん「明海は友達はいるのかな?」
明海「リアルで? マビで?」
あすさん「できればリアルで」
明海「あ……えっと……あたしの友達は……」
あすさん「(゚Д゚;∬アワワ・・・」
明海「;;;;;;;;;;;;;;;;;;」
あすさん「( ゚ω゚)フム……じゃあ質問を変えよう。明海はどんな学校に通っているのかな?」
明海「えーと……笑わないでね……」
あすさん「笑わないよ( ^ω^)」
明海「顔文字が笑ってる……」
あすさん「失礼……」
明海「あたし、役者を目指してるんだ」
あすさん「初耳だ…………」
明海「……意外だった?」
あすさん「すごく意外に思う……てっきり錬金術師の家を継ぐものかと……」
明海「まぁ、それでもいいんだけど……あたしは役者になりたいの」
あすさん「それ、何だろう?僕も知りたいです! 声優とか?」
明海「それもあるし、もっとドラマとか映画とかで活躍したいな~」
あすさん「(ノ゚ο゚)ノ オオオオォォォォォォ-(●'д')bファイトです」
明海「┏O)) アザ━━━━━━━ス!」
あすさん「アイバの声を担当する可能性もあるわけだね( ^∀^)ゲラゲラ」
明海「実写版マビで主役を演じてみせるわ( ^Д^)ゲラゲラ」

あすさん「( ゚ω゚)フム それで養成学校みたいなところに通っている、と?」
明海「(o´・ω・)´-ω-)ウンそうだよ」
あすさん「よくわからないけど…そういう学校だと友達関係が難しくなるものなのかな…」
明海「そうみたい……みんながみんな役者になれるわけじゃないもの…」
あすさん「弱肉強食の世界か……」
明海「でも頑張るよ……といっても……学校……どうしよう……」
あすさん「そうだな。どうにか登校できるようにしなければ、役者の道は閉ざされてしまうかもしれないからな…」
明海「どうすれば………」

明海「はぁ……。なんだろ……なんかマビをやるのも面倒になってる気がする……」

学校であったこと、原因不明の寒気と恐怖感、マビノギのメンテナンス──
さまざまな要因が重なり合い、しだいにやる気を失っていく明海であった。


明海「ゲームにすら退屈するあたしって…もう末期なんじゃないかな…」

マビノギとは、不思議な世界で冒険または生活をするMMORPGのことであり、
その舞台は壮大なファンタジーを描いたものであるとされ、
一生無料でプレイすることができ、ほのぼの系であるといわれている。

そのゲームで明海がしていることといえば、アイバの錬金術師の家アルバイトくらいで、
アルバイトの合間にはあすさんとチャットをするだけであった。


明海「あ~つまんない~! あすさんも退屈だし! もっと楽しいことはないのかな…」

つまらない、退屈だ、と言いながらもマビノギしか居場所のない明海である。
仕方なくログインすることにした。


あすさん「(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっおっ」
明海「('A`)」
あすさん「Σ(`∀´ノ)ノ アウッ」
明海「もうマビやめるかも…」
あすさん「Σ(;´△`)エッ!?( ;´Д`)いやぁぁぁぁぁー!」
明海「だって…つまらないんだもん…」
あすさん「何かを詰めればいいのかな…」
明海「もう! あすさんのギャグもつまんないのよ!」
あすさん「ウワァァ。゚(゚´Д`゚)゚。」
明海「むかつく」
あすさん「(´;ω;`)ウッ…機嫌が悪いね……」
明海「別に…あすさんに対してじゃないよ…」
あすさん「何かあったのかな…(´・ω・`)」
明海「('A`)モウー」
あすさん「言いたくなければ、深入りはしないけど」
明海「………………」
あすさん「マビをやめる前に、理由だけ知っておきたくて」
明海「ま、まだやめると決めたわけじゃないよ!」
あすさん「あまり無理をしないほうがいいよ…」
明海「そんなんじゃないの。ただ………」
あすさん「あすさんなんて(゚⊿゚)イラネヽ( ・∀・)ノ┌┛ガッΣ(ノ`Д´)ノ(っ・д・)三⊃)゚3゚)'∴:. ガッってことか…」
明海「違う! さっきはちょっとキレてただけ。あすさんは関係ない」
あすさん「( ゚ω゚)フム」

ほのぼの系でありながら、時としてチャットは白熱する場合がある。
空気を読めないあすさんのギャグや、自虐的なジョークなどは日常茶飯事であった。

あすさんは多くの人の反感を買いやすい性格である一方で、
人の悩みを聞き出し、問題を解決へと導く能力にも長けている。
前者はどうしようもないバカであるが、後者はいわゆる「真面目あすぴん」と呼ばれるもので、
「普通にかっこいい」と思われる場合があり、好評を博しているという。

ほとんど勘違いであるが。



明海「あすさん、実は…」
あすさん「(゚∀゚)ナニ?」
明海「真面目に聞いてくれますか?」
あすさん「真面目に0),,゚Д゚)」
明海「……それって真面目なの?;;」
あすさん「(o´・ω・)´-ω-)ウン」
明海「('A`)…」

メンテナンス。


それはプレイヤーにとって暇な時間である。
ネクソンがどうであるかは誰にもわからない。


定期臨時メンテナンスは1時間の予定だが、とても長く感じられるものだ。

明海とて例外ではなかった。


明海「暇だ~~…。どうしよう。課題でもやるかぁ……」


学生はメンテナンスの時間を、宿題やレポートの作成に費やしたり、
自分の趣味で楽しんだり、他のオンラインゲームで遊んだりするものである。

大半の人が「現実」と向き合うための大切な時間、
「現実」を再認識するための貴重な機会、と考えることもできる。


明海「……う……なんだろう……寒い……気分が悪い………」

ノートを開いた瞬間、明海は原因不明の寒気に見舞われる。


明海「…なんで……寒い……寒くて体が…震える………」

寒さに震えながら、明海はまたベッドにもぐり込んでしまった。



すると…





ピンポーン。




インターホンの鳴る音が聞こえた。

半分眠っているような状態であるのに、その音だけが鮮明に聞こえた。


明海「(誰……誰なの……来ないで……この前に来たのも…誰……?)」


明海は気分の悪さと同時に、恐怖も感じずにはいられなかった。

まるで自分の眠るタイミングに合わせるかのように鳴らされるインターホン。

そこに、誰がいるのか……。



ピンポーン。



明海「(…いや…やめて……もう…吐きそう…………)」


ピンポーン。


明海「(…やめて…来ないで……ああ…やだ……怖い………!)」


ピンポーンピンポーンピンポーン。


明海「(悪霊退散…悪霊退散…悪霊…㌶㌍㌫㌻㍗㌫㍊㍍㌘㌶㌍㌫㌻㍍㍗㌘㌶㌍㌫㌻㍍……)」





明海「っは!」




どのくらいの時間が過ぎたのか。

明海は自分が何をしていたのかさえ覚えていない。

ただ気づいたら、何事もない状態になっていたのだ。



明海「…………夢?」

なんとなく視線を向けると、電源が入ったままのノートパソコンの画面が目に留まった。


明海「あ…そうだ……メンテだったんだ……もう、終わってるかな………。
 あ、でも、その前に課題………いや、いいや。先にマビやろう!」



メンテナンスはすでに終わっており、本来、学校から帰宅するのと同じ時刻になっていた。



明海「はあ………なんか、ぜんぜん意味なかったなぁ………」

今日は月曜日。

多くの学校や会社で「週の初め」とされる曜日である。

しかしマビノギは違う。

この日は必ず不具合が起こるとされており、それを回避するための
メンテナンスを絶対に行わなければならない日なのだ。


10時ごろ…


明海「今日も学校休んじゃったなぁ……ってか、起きたのがこんな時間……。
 ……まっ、何とかなるよね。さ、マビしよっと」

こうして明海は連日、学校を休んでしまったことになる。

楽観的な彼女は悲観的なあすさんと違って、学校を無断欠席することへの罪悪感がなく、
平然とゲームで遊ぶことができるのである。


明海「あすさんは、めったに午前中にはINしないのよね~……ほら、いない。
 あ、でも郵便に何か届いてる。どれどれ……ああ、いつもの薪か」

明海は郵便箱から薪を受け取ると、すぐさまアイバのところへ向かった。


もちろん、アイバの錬金術師の家アルバイトのためである。


…明海は気づかない。

アイバのアルバイトをいくらこなしたところで、錬金術に近づくことすらできないということに。


明海「なんでアイバは薪が必要なんだろう? ああ…かまどに使う燃料か…」

ようするに明海はアイバに利用され、パシリになっているだけなのだ。

かまどなど薪の有無にかかわらず常に燃え続けている。

このアルバイトをする人がいないからといって、かまどが使用不可能になることなどない。



明海「ほら、アイバ! 薪を持ってきてやったぞwwwwwwww」
アイバ「明海さん、すごいです!最高です!」
明海「本当にすごいと思ってる?wwwwwwwwwwwwwwwwww」
アイバ「それ、何だろう?僕も知りたいです!」
明海「(;^ω^)……」

NPCと本気で話をしようとする明海。

アイバは単なるプログラムにしたがって「定型文」を返しているだけである。


明海はアイバとの「会話」を30分以上続けた。


明海「もう! なにこいつ! 会話をやめたい?
 あたし以外に、誰があんたの相手をしてくれると思ってるの!?
 なんなの? バカなの? 死ぬの?
 ほら、あんたの好きな緑の玉くれてやるわよ。味わって食べなさいよ」
アイバ「ウッ、寝るところがないんですか?」
明海「………」


突然、画面の上部に横長の黒帯が表示される。

そしてオレンジ色の文字で、臨時メンテナンスのアナウンスが流れる。


明海「アッー! そっか、月曜って定期臨時メンテがあるって話だった。
 初めてテロップ見たよ。ふむ………」


明海は仕方なくマビノギを終了し、臨時メンテナンスが終わるのを待つことにした。

「ずいぶん遅くまでいるね。……学校は大丈夫?」


現実の時間は0時を過ぎていた。


明海「いやwwwwww土曜日だからwwwwww」
あすさん「ああ、サーオィンか……。曜日の感覚がなくなってきた…」
明海「今から転生するし」
あすさん「!!!!!!!!!!!!」
明海「どうしたの?????」
あすさん「カード買わないと……」


マビノギに150年以上のキャリアを持つあすさんは、もはやスキルも装備も飽和状態であるから、
ゲーム内で自分が必要としているものなど一切ないかのようである。

変身スキルを習得しておらず、転生回数を増やしたからといって意味があるわけでもないが、
ただ2週間ごとの転生だけは決して怠ることがなかった。

そんな彼だからこそ、現実における曜日の感覚がなくなることがあり、
ファンタジーライフクラブの有効期限や、転生する予定時刻なども
すっかり忘れてしまう場合があるのである。



あすさん「よし、カード買った」
明海「あすさんは顔を変えないの?」
あすさん「もう100年以上、ずっと変えてないね」
明海「じゃあ、ずっとベーシックカード?」
あすさん「ベイリックシード」
明海「(?_?)」



多くの場合、転生でイリアのほうを選択するという。

転生フィールドともチュートリアルフィールドとも呼ばれるその場所には、
フィオンというアレクシーナの原形であるNPCが立っている。

転生した際にはフィオンから色指定染色アンプルを受け取ることができる。



あすさん「(゚Д゚)ハァ?」
明海「点滅キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!」
あすさん「ヽ( ・∀・)ノ●ウンコー色だった……」
明海「ヽ( ・∀・)ノ●ウンコー」


アンプルは10回まで選択することができ、ランダムで色が変わっていくが、
最終的には不本意な色をフィオンから押し付けられる形になってしまう。



あすさん「名前の前にアクセントをつけるっていう意味がわからん」
明海「         フィオン!wwwww」
あすさん「名前の前に位置するところとは…」
明海「ゥ─σ(・´ω・`*)─ン…」
あすさん「150年やっていても理解できないことがあるのだよ…」
明海「( ^∀^)ゲラゲラ」




こうして議論を交わしながら転生フィールドをあとにした。

「誰ですか…? こんな時間に…明海…?」


金曜日の正午過ぎ。通常はログインできないはずの時間帯である。



明海「(ノ゚Д゚)人(゚Д゚ヽ)おっはようおっはようボンジュール♪」
あすさん「(;゜〇゜)」
明海「臨時メンテ\(^o^)/オワタねw」
あすさん「(;゜〇゜)」
明海「今日は昼間からマビやるぞ!Σс(゚Д゚с」
あすさん「(;゜〇゜)」

あすさんは明海の行動を少し不審に思っていた。


あすさん「(´・ω・`)やあ 二日間こなかったね。異変でもあったの?」
明海「あー……」
あすさん「変異が起こりつつあるような……」
明海「(ヾノ・∀・`)ナイナイwwwww」

あすさんは極度の心配性なのである。


あすさん「最新型インフルエンザ?」
明海「(ヾノ・∀・`)ナイナイwww最新型てwwwwww」
あすさん「学校\(^o^)/オワタの?」
明海「(゚д゚ ≡ ゚д゚) 今日は休んだ」
あすさん「( ゚ω゚)フム…」
明海「インフルじゃないよwwwww」
あすさん「( ゚ω゚)フム」
明海「あたしは大丈夫だからwwwwww(・ε・)キニシナイ!!」
あすさん「(;・∀・)ダ、ダイジョウブ…?」
明海「さてと! アイバ行ってくる」
あすさん「それ、何だろう?僕も知りたいです!」
明海「aspirinさん、すごいです!最高です!」



「相葉明海」という名前の由来。

相葉はアイバを表し、
明海はAlchemy(錬金術)をもじったものであるという。

彼女は妄信にとらわれやすい家系に生まれ、宗教や健康食品をはじめとする数々の思い込みや、
ルネサンス期のヨーロッパで生涯を捧げた錬金術師の血をも受け継いでいるのである。



明海「ヽ(゚∀。)ノウェ 小さい緑の玉だって」
あすさん「ヽ(´Д`;)ノアゥア... 街灯をひたすらヽ( ・∀・)ノ┌┛ガッΣ(ノ`Д´)ノ」
明海「ヽ(`Д´☆ガッ■━⊂(・∀・)⊃━■ ガッ☆`Д´)ノ」
あすさん「( ・∀・)人(・∀・)人(・∀・ ) ガンバー」
明海「アイバめ。錬金術師なら自分で玉を作ったらいいのに(#^ω^)ピキピキ」
あすさん「シリンダーを作る技術があるのだから、玉も自作すればいいのにね」
明海「(*´・ω・)(・ω・`*)ネー」

明海が取り組んでいるのは、アイバの錬金術師の家アルバイトである。
「薪」または「小さい緑の玉」をただ集めて持ってくるだけの内容であり、
スキルとしての錬金術を用いる場面がまったくない。

そのため、ネクソンに批判が寄せられている。(ないけど)


明海「やっと10個集まったよ~~」
あすさん「ヾ(*・∀・)ノシ゚.:。+゚ ヤッタァ」
明海「報酬もらうよヽ(*´∀`)ノキャッキャッ♪」
あすさん「( ´・・`)何が出るかな?」
明海「ちょwwwwwwwwwwww牛乳1個てwwwwwwwwwwwww」
あすさん「(*´・ω・):;*.’:;ブッ」
明海「緑の玉が牛乳に変化する……!」
あすさん「(・`д´・;)ス、スゴイ・・・。」
明海「明海さん、すごいです!最高です!」
あすさん「m9゚(゚`∀´゚)゚9mプギャーッハッヒャッヒョ」
明海「( ^∀^)ゲラゲラ( ^∀^)ゲラゲラ( ^∀^)ゲラゲラ」
あすさん「牛乳(/◎\)ゴクゴクッ・・・」
明海「(/◎\)ゴクゴクッ・・・」
あすさん「(;゚д゚)ゴクリ…」
明海「上半身が太ましくなったwwwwwwwwwww」
あすさん「ふとい!!!!!!!!!!!!!!!」


明海はファンタジーライフクラブやペットカードなどを購入し利用しているが、
真剣に錬金術師を目指しているため、戦闘よりもアルバイトに夢中であった。

精神的なショックから立ち直れない相葉明海(あいば・あけみ)は次の日も学校を休んだ。


トイレに紙がなかったこと。牛岡先生のひどい一言。クラスメイトの冷たい反応…
いや、そもそも自分の体調管理が悪かったのだ──。


もともと快活な性格の明海は、物事をわりと合理的に考えることができ、
落ち込んでいてもすぐに立ち直るタイプなのである。



しかし、また次の日も学校を休んでしまう。



明海「あ~つまんない~……マビでもやろう…」

明海はベッドに寝転がったままノートパソコンの電源を入れた。


明海「ふふっ。平日の朝からマビができるなんて♪」

Windows XPの「ようこそ」画面が表示され、デスクトップのショートカットからマビノギを起動する。



明海「はぁ? 臨時メンテナンスのお知らせ…………」



木曜日の定期メンテナンスと月曜日の定期臨時メンテナンスは常識だったが、
今回は金曜日に臨時メンテナンスが行われているところであった。


明海「12時までかかるって……長すぎでしょ……もういいわ……」

明海はノートパソコンを閉じ、再びベッドにもぐり込んだ。





ピンポーン。




目を閉じて数分もたたないうちに、インターホンの鳴る音がした。

明海は学校をサボっているので、その来客に応じようとはしなかった。



ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。



明海「(……誰なの……うっさいわねぇ……うちには平日は誰もいないってのに……)」

明海が不審に思っていると、やがてその来客は去っていったようである。




そして12時が過ぎた。



明海「よしよし。延長はないみたいね。どれどれ……」


食事をするよりもマビノギを優先。

明海はすっかりマビノギに夢中になっていた。

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