家庭教師というのは、いわゆる学校の先生とは異なり、免許や資格を必要とするものではない。
そのため学校の先生以上に実力や人柄、生徒との相性が問われる分野であるから、
あすさんの出る幕などほとんどないといっても過言ではないのであった。
そのため学校の先生以上に実力や人柄、生徒との相性が問われる分野であるから、
あすさんの出る幕などほとんどないといっても過言ではないのであった。
明海「あすさんは何を教えてくれるの?」
あすさん「何を教える……うーん……」
明海「何を勉強したらいいのかわからないね」
あすさん「ちょっと教科書を見せてもらってもいいかな?」
明海「どぞ~」
あすさん「何を教える……うーん……」
明海「何を勉強したらいいのかわからないね」
あすさん「ちょっと教科書を見せてもらってもいいかな?」
明海「どぞ~」
明海は席を立ち、教科書のあるところへ歩いていった。
あすさんはあわてて呼び止める。
あすさんはあわてて呼び止める。
あすさん「待て待て、まさか…教科書が遠くにあるのか…」
明海「うん~」
あすさん「じゃあ…そこでやろう…」
明海「はーい」
明海「うん~」
あすさん「じゃあ…そこでやろう…」
明海「はーい」
レストランから2分ほど歩いていくと、明海の学習机らしきものが置かれているところにたどり着いた。
あすさん「こんなに部屋を広く作って…大変だろう…」
明海「どうってことないよ。慣れちゃえば!」
あすさん「いつになったら慣れるかな…」
明海「気にしない気にしない! はい、これが教科書の全部だよ」
あすさん「どれどれ……」
明海「どうってことないよ。慣れちゃえば!」
あすさん「いつになったら慣れるかな…」
明海「気にしない気にしない! はい、これが教科書の全部だよ」
あすさん「どれどれ……」
あすさんが適当な教科書を手に取り、パラパラとページをめくってみる。
あすさん「……な、なんだこれは……」
明海「アッー!」
明海「アッー!」
教科書の至るところにカラフルなペンで落書きがされている。しかも妙に見覚えのある絵だ。
人形っぽい目、微笑む口、ピンクのローブ……
一目でaspirinを描いたものであることがわかってしまった。
人形っぽい目、微笑む口、ピンクのローブ……
一目でaspirinを描いたものであることがわかってしまった。
あすさん「どんだけaspirinラヴなんですか……」
明海「いや~! 落書きはどうでもいいの!」
あすさん「授業中も頭はマビのことでいっぱいか……」
明海「もうっ! 仕方ないじゃない~~」
あすさん「じゃあ…ノートのほうも…やっぱり……」
明海「これは見せないっ!」
明海「いや~! 落書きはどうでもいいの!」
あすさん「授業中も頭はマビのことでいっぱいか……」
明海「もうっ! 仕方ないじゃない~~」
あすさん「じゃあ…ノートのほうも…やっぱり……」
明海「これは見せないっ!」
明海との授業は難航した。
学習どころではない話題が次々と飛び出してくるからである。
学習どころではない話題が次々と飛び出してくるからである。
あすさん「はあ……授業を始めるつもりの時間から、もう1時間が過ぎてしまった…」
明海「あっという間だね。あすさんとしゃべるの楽しいから」
あすさん「いやぁ…でも…これじゃだめだ……」
明海「楽しいから、いいってことにしようよ~」
あすさん「明海のお母さんがなんて言うか……」
明海「お母さんも、別にあすさんに期待なんかしてないと思うよ~?」
あすさん「ぶはっ!」
明海「あぁっ! あたしは期待してるからね!」
あすさん「お母さんも、って…」
明海「あーっ! 違うの違うの! 一般論として、だよ。あたしは期待してるよ!」
あすさん「まぁ、いいか……期待されても困るし……」
明海「あっという間だね。あすさんとしゃべるの楽しいから」
あすさん「いやぁ…でも…これじゃだめだ……」
明海「楽しいから、いいってことにしようよ~」
あすさん「明海のお母さんがなんて言うか……」
明海「お母さんも、別にあすさんに期待なんかしてないと思うよ~?」
あすさん「ぶはっ!」
明海「あぁっ! あたしは期待してるからね!」
あすさん「お母さんも、って…」
明海「あーっ! 違うの違うの! 一般論として、だよ。あたしは期待してるよ!」
あすさん「まぁ、いいか……期待されても困るし……」
明海「あすさんって体育はだめなんだっけ?」
あすさん「だめすぎる」
明海「運動が苦手?」
あすさん「正確に言うと、運動そのものが苦手なのではなく、他の人と協力したり、競い合ったりするのが苦手」
明海「たとえば?」
あすさん「うーん、逆に考えよう。一人で体を動かすだけなら、別に苦手なことはないんだ」
明海「ほう!」
あすさん「試合や競技という概念がある運動は、基本的にだめと思っていい。野球もサッカーも、大縄跳びも、リレーも…」
明海「試合のないスポーツって…なんだろう……」
あすさん「球技などはほとんどアウトだ。一人だけでは成立しえない運動だからな。一対一でも相手がいるのだから、アウトだ」
明海「体操とかはどうなの?」
あすさん「それは悪くない」
明海「おお!!」
あすさん「でも体操の授業なんて、無視されるくらいの内容だった」
明海「水泳は?」
あすさん「ほとんどだめだ。全身の連携が上手くできず、息継ぎの要領が身につけられない」
明海「ぜんぜん泳げない?」
あすさん「頭を水面から出していなければ泳げない。犬かきだな…」
明海「そっかぁ…無理は言えないね。泳げない人にとっての水泳は、命にかかわるもんね……」
あすさん「明海はよく理解しているな……私が教える必要もないくらいに……」
明海「よく理解できるよ。理解しようとしてるんだから…」
あすさん「……まいったな……」
明海「なにが?」
あすさん「どっちが先生なのかわからなくなってきた」
明海「うははは! そうだね!」
あすさん「だめすぎる」
明海「運動が苦手?」
あすさん「正確に言うと、運動そのものが苦手なのではなく、他の人と協力したり、競い合ったりするのが苦手」
明海「たとえば?」
あすさん「うーん、逆に考えよう。一人で体を動かすだけなら、別に苦手なことはないんだ」
明海「ほう!」
あすさん「試合や競技という概念がある運動は、基本的にだめと思っていい。野球もサッカーも、大縄跳びも、リレーも…」
明海「試合のないスポーツって…なんだろう……」
あすさん「球技などはほとんどアウトだ。一人だけでは成立しえない運動だからな。一対一でも相手がいるのだから、アウトだ」
明海「体操とかはどうなの?」
あすさん「それは悪くない」
明海「おお!!」
あすさん「でも体操の授業なんて、無視されるくらいの内容だった」
明海「水泳は?」
あすさん「ほとんどだめだ。全身の連携が上手くできず、息継ぎの要領が身につけられない」
明海「ぜんぜん泳げない?」
あすさん「頭を水面から出していなければ泳げない。犬かきだな…」
明海「そっかぁ…無理は言えないね。泳げない人にとっての水泳は、命にかかわるもんね……」
あすさん「明海はよく理解しているな……私が教える必要もないくらいに……」
明海「よく理解できるよ。理解しようとしてるんだから…」
あすさん「……まいったな……」
明海「なにが?」
あすさん「どっちが先生なのかわからなくなってきた」
明海「うははは! そうだね!」
明海の鋭い洞察に驚かされるあすさん。
これほどの理解力を持っていながら、どうして学校へ行きづらいと感じるようになったのか。
これほどの理解力を持っていながら、どうして学校へ行きづらいと感じるようになったのか。
それ以上に疑問なのは、億万長者なのになぜ役者になる夢を抱いているのかである。
わざわざリスクの大きな将来を目指すことが本当に必要なのか……。
わざわざリスクの大きな将来を目指すことが本当に必要なのか……。
ここへ来てあすさんは、明海に釣られているのではないかと思い始めた。
あすさん「……そうだ!」
明海「なになに?」
あすさん「ちょっと気が早いけど、進路相談をしよう」
明海「進路相談……」
あすさん「生徒の進路について考えることも先生の仕事だからな」
明海「おお~! かっこいい!」
明海「なになに?」
あすさん「ちょっと気が早いけど、進路相談をしよう」
明海「進路相談……」
あすさん「生徒の進路について考えることも先生の仕事だからな」
明海「おお~! かっこいい!」
役者志望の明海を徹底的に追及することになった。
あすさん「役者になりたいと言っていたね?」
明海「うん」
あすさん「どうして役者になりたいのかな?」
明海「……あたしもお父さんみたいに目立つ存在になって、人の役に立ちたいと思ったから……」
あすさん「お父さんにはまだお会いしていないけど、その偉業は全世界を震撼させるほどの影響を及ぼしている」
明海「お父さんの会社が、日本のGDPの650%を占めているんだって」
あすさん「信じられない数値だな。世界のほぼ半分に匹敵するんだぞ…一つの会社が…何かの間違いなんじゃないのか…」
明海「間違いだとしたら、あたしの身の回りにあるものは全部うそってこと。あすさんは夢か幻覚を見ていることになるよ」
あすさん「………お父さんを超える存在になりたいと思うようになったわけだね?」
明海「うん。だってあたしにはお父さんみたいな錬金術は使えないから……」
あすさん「役者としてテレビや舞台の上に立てば、目立ったことになるわけか……」
明海「お母さんはあたしに、普通に進学して、普通に就職して、普通に結婚でもすればいいって言うけど、
お母さんはお父さんを好きではないみたいで……結婚という部分が、どうしても信用できないの」
あすさん「な…なんてことだ………」
明海「……そもそも普通って何なのか……お母さんはあたしを普通と言うけれど……じゃあ普通じゃないものって何なのか……」
あすさん「なるほど……」
明海「だから…ね……あたし、学校でも友達ができなくて……」
あすさん「まるで次元が違うように思われているね……」
明海「……何も悪いことしてないのに……」
あすさん「大変だね…」
明海「うん」
あすさん「どうして役者になりたいのかな?」
明海「……あたしもお父さんみたいに目立つ存在になって、人の役に立ちたいと思ったから……」
あすさん「お父さんにはまだお会いしていないけど、その偉業は全世界を震撼させるほどの影響を及ぼしている」
明海「お父さんの会社が、日本のGDPの650%を占めているんだって」
あすさん「信じられない数値だな。世界のほぼ半分に匹敵するんだぞ…一つの会社が…何かの間違いなんじゃないのか…」
明海「間違いだとしたら、あたしの身の回りにあるものは全部うそってこと。あすさんは夢か幻覚を見ていることになるよ」
あすさん「………お父さんを超える存在になりたいと思うようになったわけだね?」
明海「うん。だってあたしにはお父さんみたいな錬金術は使えないから……」
あすさん「役者としてテレビや舞台の上に立てば、目立ったことになるわけか……」
明海「お母さんはあたしに、普通に進学して、普通に就職して、普通に結婚でもすればいいって言うけど、
お母さんはお父さんを好きではないみたいで……結婚という部分が、どうしても信用できないの」
あすさん「な…なんてことだ………」
明海「……そもそも普通って何なのか……お母さんはあたしを普通と言うけれど……じゃあ普通じゃないものって何なのか……」
あすさん「なるほど……」
明海「だから…ね……あたし、学校でも友達ができなくて……」
あすさん「まるで次元が違うように思われているね……」
明海「……何も悪いことしてないのに……」
あすさん「大変だね…」
涙を浮かべながら話す明海。
これは演技なのか?
役者志望の人間なら、このくらいのパフォーマンスはあるかもしれないと、あすさんの緊張はいっそう高まっていった。