「描く」ではなく「見る」。

絵は「描くこと」が主題になっていると思っている人は多いのではないでしょうか。
それは違います。
描くことに先立って「よく観察すること」が必要だからです。

デッサンというのはしばしば「写実主義」や「リアルイラスト」を“描く能力”と混同されますが、
その本質は「描くこと」ではなく「対象をよく観察すること」にあります。
言い換えれば、よく観察した分、リアルな絵を描くことができるようになるわけですが、
実際に描かれた絵は観察の結果であり、その過程ほど重要ではないのです。

その意味がよくわからない…」と感じる人がいるのも無理のないことです。
事実、絵心のある人さえ「観察すること」を特に意識していることはなく、
「描く能力」が最も要求され、とにかく「描く」ことが大切だと考えているからです。
でも考えてみてください。
何も見ないで絵を描くことは可能なのでしょうか? 依頼人の細かな要求にこたえるために、
資料を何も用意しないで自分の記憶だけを頼りにして描き、納得させることができるでしょうか?
そんなことはないと思われるでしょう。
たとえば大工が家を建てるとき、材木の長さを測らずに「勘」だけで切るようなことをするでしょうか?
長年の経験である程度は正確な長さで切ることができるかもしれません。
しかし普通は長さが狂ってしまい、家が傾いたり、そもそも建てられなかったりするでしょう。
そんな大工に家の建設を頼みたいと思われますか? 思わないでしょう。
材木を切る前に、長さをしっかりと測ることが大切です。

デッサンというのはまさに大工が材木の長さを測るようなものなのです。
木を切るのは、そのあとです。
デッサンもそれと同じで、対象をよく観察して「測り」、紙に描いて記録していくのです。
デッサンは観察がすべてです。
だからデッサンをするときには、自分の持っている記憶や知識を少し忘れておかなければなりません。
中途半端な知識を持ち出して「これは115mmくらいだな」と見当をつけても、実際には120mmだったら誤差が出てしまいます。
いい加減な見当をつけるのではなく、実際に観察して測定することが必要なのです。
そうすることがデッサンの本当の意味です。

観察すればするほど、物事の理解を深めることができるようになります。
そして絵を描く能力も比例して向上していきます。

(゚∀゚)カエル!