長い夜が明けた。


予想に反してあすさんと執事は熟睡していた。

二人は背中を向け合って布団で寝ていたのである。


あすさん「ああっ!!寝過ごした!」
執事「aspirinさま、おはようございます」
あすさん「うわあああああああああああ!!!!!一緒に寝ていたのか!!!!!!!」

気配も感じさせずに横で寝ていた執事に驚くあすさん。

あすさん「もう11時だ。天気はどうなんだ!?」
執事「ふぁあ……あ…ああ…失礼いたしました…。わたくしも今、目を覚ましたところで……」
あすさん「はあ……これからは窓の近くで生活したほうがいいな……」
執事「はい……。どこにいても外の様子を見られるよう、カメラとモニタを設置いたしましょうか…」
あすさん「家を設計する段階でそうしてくれ……」

二人は窓に近づくと、温かい日差しのあることを感じた。

あすさん「いい天気だ! 今すぐ出発できそうか??」
執事「はい! ただちに!」
あすさん「その前に、トイレ……」
執事「はい……では、わたくしも……」

二人は連れ小便でトイレへ寄り、屋上へ向かった。

あすさん「む……あれだけ積もっていた雪がなくなっている……」
執事「なんと……」
あすさん「しかも…妙に暖かい……」
執事「ヘリの機体に素手で触っても大丈夫でしょうか…」
あすさん「この暖かさなら平気だろう……」
執事「では地上を走ってまいりましょうか」
あすさん「地上まで降りるのに時間がかかる…」
執事「おお……そうでした……」
あすさん「……まさか…操縦できないということはないだろうな…?」
執事「とんでもない!!ヘリは自動操縦でございますので…」
あすさん「おいおいおい……」

執事「目的地を入力すれば、自動的に飛んでいけます」
あすさん「ううむ……」


あすさんは半信半疑でヘリに乗り込むと、執事が操縦することなく離陸した。


あすさん「おお~~飛んだ飛んだ!」
執事「ヘリコプターは初めてでございますか?」
あすさん「イエス」
執事「最近、墜落する事故が多くて心配で……」
あすさん「…………」
執事「ああ! このヘリは大丈夫でございますよ!!!」
あすさん「ふむ……まぁ、まっすぐには飛んでいるようだから、大丈夫…か」
執事「はい! 決して落ちることはございません!」
あすさん「人を乗せて飛ぶヘリコプターを自動で操縦できる技術があるのに、ほかのシステムが…なんだかなぁ……」
執事「ナビによると、あの建物が病院でございます」
あすさん「おい……」
執事「わたくしは地理に疎いもので……」
あすさん「そういう問題なのか……」


二人を乗せたヘリは無事、樽帝院病院の屋上に着陸した。


あすさん「明海の病室は!?」
執事「……あ……」
あすさん「あ!?」
執事「…申し訳ございません……部屋の番号をうかがっておりませんでした……」
あすさん「なんだよ…まったく!!いいよ、受付で聞いてくる!」

あすさんはナースステーションを探して歩いた。

明海の自宅よりもはるかに狭く、迷うことはなさそうである。


あすさん「相葉明海の病室は…?」
受付「6階の6002号室です」
あすさん「ありがとう」
受付「あ、あの~」
あすさん「なにか?」
受付「aspirinさん…ですよね?」
あすさん「ち、が、い、ま、す」


今後、自分を知る人に出会っても、決して正体を明かしてはならない──

あすさんはそう思い、他人として振舞うことになった。


あすさん「6002…6002っと……ん、あの部屋だ」

あすさんは明海の名札のついた6002号室の前まで到着した。

あすさん「ふむ…個室のようだな。勝手に入っちゃってもいいかな…どれどれ…」




ガラガラ




明海「り…っ…あ……あすさん…!」
あすさん「おっおっおっ! 元気そうだね!」
明海「…うん…」
あすさん「ああ、横になったままでいいよ。いや~…本当は昨日ここへ来るつもりだったんだけどね~」
明海「うん」
あすさん「地上は大渋滞、空は猛吹雪で……ここまで来る手段がなかったんだ~」
明海「………」
あすさん「それが一夜明けたら快晴だし、妙に暖かくなってラッキーだったよ」

明海「(…そっか…まだお昼前だもん……凛がお見舞いに来るわけないよね…)」

あすさん「ん……? 明海、大丈夫か?」
明海「え? あ、うん! あすさんと会うのが久しぶりだったから…」
あすさん「まぁ…授業がいきなり中断されてしまったからなぁ…」
明海「ふぅ~…」
あすさん「怪我の具合はどうかな?」
明海「うん…2週間は安静にしないとだめだって…」
あすさん「そうか……食事とか不便だね…」
明海「思い通りに動かせないとストレスたまる…」
あすさん「でも……治るまでは我慢しないとね」

執事は遅れて病室へやってきた。

執事「あぁ……明海さま…はぁ…大丈夫でございますか…はぁ…」
明海「見てのとおりよ」
執事「はぁ……ご無事で…はぁ…なによりで…はぁ…ございます…」
明海「……どこを走ってきたのよ? ひょっとして病院で迷った?」
執事「……は…はい……」
あすさん「地理に疎いのは本当だな…」
明海「もう……そんなんじゃあ、うちの案内も任せられないわね~」
執事「…はぁ……これからは…しっかりと…頭の中に…地図を……」


あすさん「それで…明海は、自宅のほうへ戻って治療を続けるかね?」
明海「え……うーん……」
あすさん「もし移動するのが苦しかったら、このままでもいいのだが…」
明海「うん……あたしはこのままでいい…かな…」
あすさん「そ…そうか……」
明海「実は微熱もあってね……ちょっと…」
あすさん「ああ、無理はしなくていい…」
明海「…ごめんね、あすさん…ちょっと休んでもいいかな……」
あすさん「ああ……おやすみ…」


明海の妙によそよそしい態度に気づき、違和感を覚えるあすさんであった。

とはいっても、一時的に危篤状態に陥るほどの怪我を負ったのだから、
まだその感覚が残っていて、いつものような振る舞いをすることができなくなっている可能性はある。

そう思って、あすさんは病室をあとにした。