運転手「親子で毎晩マビノギ三昧ですよ~」
あすさん「そうなんですか」
運転手「妻にも勧めているんですがねぇ…機械に弱くて操作もおぼつかないんですわ」
あすさん「一緒にプレイできるといいですね(棒読み)」
運転手「そうだ! 息子にもサインをお願いできますか。口から泡を吹いて喜ぶと思います」
あすさん「(うわ、キモ)」
運転手「いや~よかったよかった! あ、お急ぎのところ申し訳ありませんでした」
あすさん「ではまた」


あすさんはバスを降り、駅の自動券売機で切符を買うところであった。
しかし、自動券売機の操作は意外にもわかりにくいものである。

あすさん「あの~…樽帝院までの電車は……」
受付のおばさん「はい、いったん乗り換えて新幹線をご利用いただくことになります」
あすさん「どのように行けばいいですか?」
受付のおばさん「こちらの路線図をご覧いただくとわかりま……あら?」
あすさん「な、なにか……?」
受付のおばさん「もしかして、aspirinさん?」
あすさん「な………」
受付のおばさん「キャハハッ! 娘が話してた人と同じだわ~」
あすさん「なんてこったい……」
受付のおばさん「あっ、笑っちゃってごめんなさい。こんばんは。あたしが誰か、わかるかな?」
あすさん「いいえ、わかりません………」
受付のおばさん「あれま!」
あすさん「急いでいるので……」
受付のおばさん「んま~~! こんな時間にaspirinさん一人で大丈夫かしら?」
あすさん「大丈夫じゃないから聞いてるんです」
受付のおばさん「キャハハ、またまた冗談キツいんだからぁ~! はいっ、ここが受付です!
 案内を希望される方は、授業と修行についてのキーワードで声をかけてくださいね~」
あすさん「しゅ…修行…?」
受付のおばさん「今度ティルコに寄ることがあったらラサに聞いてみてね♪」
あすさん「そんなことより……」
受付のおばさん「はいはい、新幹線の駅までの切符がこれ。それから~」

受付のおばさんまでもがマビノギにハマっており、NPCの口調で話しているのである。
あすさんは日本の将来が心配になってしまった。


受付のおばさん「サインまでもらえちゃって嬉しいわ! それじゃ、気をつけてね!」
あすさん「いってきます…」
受付のおばさん「サーバー違うけどよろしくね~!」
あすさん「へ~い……」

あすさんが電車に乗り込んだ瞬間、

女子高生「あーっ! aspirinさんだ!!」
あすさん「うわ…」
女子高生「うちらと同じ方面だったんだ~!」
あすさん「またタゲられた……」
女子高生「タゲられたとか言わないの!!」
女子高生「aspirinさん、どこに行くの~?」
あすさん「まずは三河安城まで…」
女子高生「なんだって!?」
女子高生「うちら、そこで降りるよ~」
あすさん「(このまま一緒かよ…)」
女子高生「どこに行くのか気になる~」
女子高生「誰かに会うの~?」
あすさん「(なんて鋭い勘をしてやがるんだ……)」
女子高生「あのaspirinさんがこんな近くに…! ヤバすぎるよね~」
女子高生「保護ポーションなしでハビット 幼いタヌキが一発で成功するのと同じくらいヤバい~」
あすさん「ハハ…本当に緊張しますね」
女子高生「エンチャントマスターまだぁ? チンチン」
女子高生「まだぁ? チンチン」
あすさん「ま、まだぁ……」

まだぁ?(・∀・ )っノシ凵 ⌒☆チンチン
まだぁ?(・∀・ )っノシ凵 ⌒☆チンチン
まだぁ?(・∀・ )っノシ凵 ⌒☆チンチン

降車駅はまだだろうか……。

あすさんは内心すごく嬉しいが、女子高生のテンションについていけそうになかった。


女子高生「あ! そうだ、aspirinさん」
あすさん「な、なに……」
女子高生「aspirinさんとツーショット撮ってもいい!?」
あすさん「ギャアアアアアアアアアア」
女子高生「はいっ、チーズ! パシャリ!」
女子高生「パシャリ!」
あすさん「あわわ………」
女子高生「やったあああああああああああああああああああああああああああ」
女子高生「きたきたきたあああああああああああああああああああああああああああああああ」
あすさん「少しでも役に立てなのならあたいもうれしい……」
女子高生「んーん! 少しどころじゃないって!」
女子高生「アレクシーナなんて比較にならないよ! あんなおばさん、すっげ~丈夫そうなだけで魅力ないし!」
あすさん「あの……くれぐれも顔は見せないように……ね」
女子高生「うんうん! モザイクかけとくよ~」
女子高生「aspirinさんって言わなきゃ誰もわからないよ~」
あすさん「ちょっと待て……なぜ誰かに見せる話になっているんだ……」
女子高生「え~? なんでぇ~? aspirinさんのことすごい自慢できるんだけどな~」
女子高生「だって、あの影世界の英雄、aspirinさんが目の前にいるんだよ? 奇跡でもありえないことだよ」
あすさん「影世界の英雄なんてG9クリアすれば誰でも取れるのに……」
女子高生「いいからいいから! 今度は3人で撮るよ~」
女子高生「aspirinさん、真ん中にきて!」
あすさん「両手に墓……」
女子高生「パシャリ!!」



こうして新幹線の乗り場である三河安城駅に到着した。
女子高生たちがわざわざ案内してくれたのである。

しかし、疲労はすでに極限に達しているあすさんであった。

女子高生「aspirinさん!!またね~!」
女子高生「今度マビで会ったら絶対に声かけるから~!」
あすさん「は~い……またね~…」

ようやく解放される…。

あすさんは新幹線の指定席に座り、少し眠ることにした。


しかし眠れない。

また誰かにタゲられるかもしれないからだ。

………


誰からも声をかけられることはなかった。


べっ、別に期待してたわけじゃないんだからねっ!




のどが渇いたあすさんは、女子高生から受け取った飲みかけの蜂蜜ドリンクに気がついた。

粗雑なラベルの貼られたその小さな容器の中には、黄褐色で粘性の高い液体が半分ほど入っている。
キャップは開封され、明らかに飲まれた形跡がある…。


あすさんは恐る恐るキャップを開け、容器に口をつけた。

(*´・ω・):;*.’:;ブッ

蜂蜜ドリンクというより、蜂蜜そのものであった。