結論から言おう。
水素を集めただけで水爆ができたら、ノーベル賞ものの大発見だ。
そんなにすごいことなのですか?
……いや、怖いことなのですか???
ただ集めただけで核融合反応を起こすことができるなら、水や水蒸気に含まれている水素が次々と反応し、地球は今のような状態を保っていられないだろう。
そんなことはないというか、やろうとしてもできないってこと?
でも実際に水爆は完成していて、実験も行われたことがあるのですよね!?
ふむ。やはりそう考えてしまうか。
物質の本質を知る必要がありそうだな。
おはようございます、みなさん。
……ああ、鼻水が……
グズ…
汚い……
鼻水は風邪をひいたときに出てくるが、健康なときには出てこない。
健康なときに出そうとしても、簡単には出せないだろう。
一年中ずっと鼻ちょうちんを下げてるキャラはいますが……そうですね、たしかに出そうと思っても出せないですよね。
これが水爆と関係あるのですか?
鼻水が出るのに条件があるのと同じように、水爆になるかどうかという点についても条件がある。
い、いえ…
風邪ではなく花粉症なんです…
ズズズ…
風邪でも花粉症でも、それが鼻水の出る条件だってこと?
そういうことだ。
それと同じように、水素における条件とは何なのかを考えればいい。
水素というのは何物なのですか?
宇宙に存在する元素の中で「最も単純な構造をしているもの」と思えばいい。1個の陽子と1個の電子でできている原子だ。
ようこ? でんこ? はらこ?
元素は女性ですか?
ようし、でんし、げんし、だ。
決して女性の名前ではない。アイバもいい具合にボケられるようになったのね。
陽子は電子よりはるかに質量が大きく、原子の質量の大部分を占めている。
これが原子の中央にどっしりと居座っているイメージだ。
陽子と電子がセットになったものを原子というのですか?
そういう理解でいい。
陽子が中央にあり、その周りを電子がグルグル回っていると考えて差し支えない。
それならイメージしやすいわね。
どうして陽子と電子がこのような関係になるのかというと、お互いに電気の力で引き合っているから。陽子が正の電気、電子が負の電気をそれぞれ持っている。
プラス、マイナス、と考えてもいいの?
それでいい。
陽子は電子の1800倍もの質量があるが、電気の大きさは等しいため、不恰好だがきちんとつり合っている。
1800倍もの質量…って、陽子はすごく重たいんですか?
数字だけ見るとそう感じるかもしれないが、もともとミクロの世界の話なので、我々の日常的な感覚では理解できない。
ただ──
陽子が原子の質量の大半を占めているということから、陽子のある部分のことを「原子核」と呼ぶのである。
ああ! 以前にも原子核反応という言葉が出てきましたよね。
その原子核がそこだということですか?
そう。今は水素の話なので陽子1個を原子核と考えているが、
水素よりも重い元素になると陽子が増え、さらに中性子という別の粒子もそこにあるようになる。
……ややこしくなってきたわね。
しばらくは水素の原子を考えるので、陽子1個、電子1個のみとし、中性子は無視することにしよう。
今の話では、水素爆発と水爆の違いがまったくわからないわ。
そ、そうですよ!
aspirinさん!!
ぜんぜん説明になっていません!!!
原子と原子核の大きさの違いがポイントだ。
原子核、つまり陽子のある領域と、原子、つまり電子も含めた全体の大きさは、信じられないほどの違いがある。
そんなに違うの?
原子全体の大きさは直径0.1ナノメートル(100億分の1メートル)ほどなのに対して、原子核はその10万分の1から1万分の1しかない。
…え?
原子核と電子って離れすぎじゃないですか?
その間には何があるの?
何もない。真空が広がっている。
原子核という狭い領域にぎっしり詰まっている印象があるが、その周囲はまさに空虚なのだ。
あれ…?
電子と陽子が電気の力で引き合っているのなら、電子はそんなに離れていられずに、陽子にくっついてしまうのではありませんか?
いいところに気づいたな!
だが今は考えない。
きっと混乱して水爆の話どころではなくなる。
隙間だらけの原子……
原子核を融合させるには、その隙間を埋める必要があるということ?
そうですよね!?
ということは……
原子核がどういうものかを考えてほしい。
陽子はプラスの電気を持っているのだ。そうか!
プラスとプラスを融合させようとしても、反発してしまう!?
そうですよ!!
融合できないってことですね!?
その通り。反発し合う力を斥力という。
原子核同士に斥力が働いているからこそ、原子は安定でいられるのだ。
せきりょくがなかったら次々と融合して……
気が気じゃないわね……
そうなっていたら、この世には軽い元素がほとんどなく、私たちの体も重い元素の集合体になっていたかもしれないな。
そして常に融合が進む……
実際には何の問題もないなんて。
……宇宙ってよくできているのね……
宇宙さん、すごいです!最高です!
でも、太陽みたいな星はどうしてあんなに核融合を続けられるの?
自然に起こるものなの?
太陽の大きさと質量、それに材質を考えてほしい。
直径が地球の109倍、体積が130万倍、質量が33万倍の、水素とヘリウムの塊だ。
…………
すごく…大きいです…。
月とスッポンですね…。
太陽くらいの大きさに水素が集まると巨大な重力が発生し、その圧力によって高熱の状態となり、水素原子が勝手に核融合を始めるようになる。
だから天然の核融合炉というわけね。
別に誰かが水素をかき集めたり、核融合を起こそうとしたりしたわけでもなく、太陽はひたすら燃え続けているのだ。
神秘の力を感じるな。
ということは、太陽と同じような条件、重力や温度を再現すれば、核融合を起こせるのですか?
理論上はそうなる。
だが、地球上にあるすべての水素を集めても足りない。
制御することも不可能だ。
なるほど。
だから水爆のように、一瞬で終わる爆発しか再現できないわけか。
あ…あれっ?
でも宇宙って真空のはずですよね。
空気のないところでどうして太陽が燃えているのですか?
それがピンと来ない部分の一つだな。
核融合は水素同士で起こるのであって、空気、つまり酸素と反応しているものではないからだ。
水素原子だけで起きているわけか。
それが圧力と高熱で融合している、と。
だんだんわかるようになってきました。
水素爆発のほうは、酸素と反応しているのですよね?
その通り。
ただし水素は原子ではなく、分子の状態になっている。
また新しい言葉が…
水素原子には陽子と電子が1個ずつあるといったが、この状態でいるよりも、別の水素原子と一緒になったほうが安定するようになっている。
え!?
融合しちゃうんですか??
む~…
さっきも説明したように、核融合というのは原子ではなく、
原子核が融合することをいう。原子と原子核の大きさの違いを強調したのは、まったく別の現象だからだ。
原子核ではなく、原子が融合するのですか?
その通り。
今までは核反応だったが、これからは化学反応を考えていく。
水素分子というのは水素原子と違うの?
単純に、水素原子が2個合わさったものを水素分子と考えていい。
それは実際に存在しているのですか?
その通り。
むしろ身近にある水素といえば、水素分子のほうが普通なのだ。
水素分子はどうなってるの?
水素原子には陽子と電子が1個ずつあるが、それが2つ近づくと、一方の水素原子が他方の水素原子の電子を奪って自分のものにしようとする。
えっ…
そして他方の水素原子も同じように相手の電子を奪って自分のものにしようとする。
ってことは…?
お互いに「相手の電子を1個ほしい」といって近づき、それぞれの水素原子が電子を共有するようになって結合する。
これを共有結合という。
なるほど!!
それで水素分子になるわけですね!
原子核はそのままに、電子だけを分け合って共有するのか。
それでもう理解できたも同然だ!
核反応は原子核で起こるが、化学反応は原子核はそのままに、電子のやり取りで起こる、まったく別の現象だということだ。
核融合を起こすためには、原子核と原子核をどうにか近づけないといけない、ってことか…。
そのためには高温と高圧が必要…。
それに比べて化学反応は、原子の表面的な部分で電子をやり取りしているだけに過ぎない…。
水素爆発は水素と酸素の反応だが、水素と同じく酸素も原子ではなく分子として関わっている。
2個の水素分子が、1個の酸素分子と出会うと──
一瞬のうちに結びつき、熱を出す(水素爆発)。
結びつく際に爆発を起こし、その結果「水」となる。
この一連の現象を化学反応という。
こんな老人の頭でも理解できるように説明していただき、感謝します、aspirinさん。
ところで、水爆と水素爆発の違いは何でしたっけ?
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )
基本的な知識を長々と解説してきましたが、錬金術では決して説明することのできない核反応と化学反応を少しでも理解できたら幸いです。
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