mabinogi_2010_09_19_002 少し難しい話になるので、簡単なたとえから始めます。
 熱くなった鍋に手を触れると火傷します。この、火傷するまでの過程を考えてみましょう。

 鍋はコンロの火で加熱され、高温になっています。次に、手を伸ばして鍋に触れます。すると鍋の熱が手に伝わり、手が熱くなり、火傷が起こります。

 ……だから何? と思われますか。鍋に手を触れたから火傷をするのであり、触れる「前」には火傷しません。これが重要なポイントです。
 「鍋に手を触れた」という事実があって初めて火傷が起こるのです。「手を触れる前に火傷が起こり、あとから手が鍋に触れる」ということは絶対にありません。また、手を触れる前に「熱い」と感じることもありません。(実際には、鍋に手を触れる間に「少しずつ熱くなるので気づくんじゃないか?」と思うかもしれませんが、触れるのにかかる時間は考えないことにします。あくまで、火傷は鍋を触ったあとに起きるということが問題です)


 これと同じことがネットの世界にも当てはまるのです。

 インターネットの回線は光の速さで情報を送受信しています。このスピードが非常に速いので、北海道にいる人も、東京にいる人も、広島にいる人も、熊本にいる人も、沖縄にいる人も、一瞬でメールやチャットをやり取りできるのです。ところが、それは実は「一瞬」ではなく「光の速さ」、つまり秒速約30万kmという有限の速さでやり取りされています。
 この速さを超える速さで情報を伝える手段は存在しないということに注意してください。日常の感覚では光が速すぎるので実感が沸きませんが、たとえば月面にいる人と連絡を取ろうとすると、片道1.3秒ほど、往復2.6秒ほど時間がかかり、明らかな「ラグ」があることがわかります。

 「一瞬だと思っていた出来事が、実はわずかに遅れていた」という真実は、気づかなかった人にとっては大きな発見でしょう。


 さて、ここからが本題です。

 「見ることができるすべての世界は過去のもの」といいましたが、これはまさに光の速さが有限だからそうなっているのです。正確には、情報を伝える速さには限界があって、光より速くはできない、ということです。
 パソコンの画面を見ることさえ、「過去に発せられた光」が目に入り、網膜に届いた刺激が神経を伝わり、脳が「見えた」と認識するまでには時間がかかっています。ただ、それが人間の感覚では「一瞬」としか思えないので、気にならないだけなのです。

 だから「いま見えた」と思っても、実は過去のものを見ているわけです。
 もし、この法則が破られたら、「メールを送る前に相手に届く」とか、「鏡をのぞき込む前に自分の顔が映し出される」ことが起きてしまいます!!鍋に触れてもいないのに火傷したり、地震が起きる前に家が揺れて壊れたり、子供が生まれる前に自分より年上になっていたり……いろいろなことが起こる可能性が出てくるのです。



 この法則が保たれているおかげで、人に悪口を言おうと思っても、「言わなければ相手には届かない」ので、対人関係を悪化させずに済みます。
 しかし逆に、悪口を言って相手に届いてしまった場合、その事実は消し去ることができません。起きてしまったことは「なかったこと」にはできず、相応の報いを受けることになっているのです。この場合は、「ああ、それも過去のことだから気にしない気にしないw」と済ませることはできないので、謝罪の意をきちんと伝えなければなりません。