マナビノギ

マビノギハァンタジーライフ

メンテナンス。


それはプレイヤーにとって暇な時間である。
ネクソンがどうであるかは誰にもわからない。


定期臨時メンテナンスは1時間の予定だが、とても長く感じられるものだ。

明海とて例外ではなかった。


明海「暇だ~~…。どうしよう。課題でもやるかぁ……」


学生はメンテナンスの時間を、宿題やレポートの作成に費やしたり、
自分の趣味で楽しんだり、他のオンラインゲームで遊んだりするものである。

大半の人が「現実」と向き合うための大切な時間、
「現実」を再認識するための貴重な機会、と考えることもできる。


明海「……う……なんだろう……寒い……気分が悪い………」

ノートを開いた瞬間、明海は原因不明の寒気に見舞われる。


明海「…なんで……寒い……寒くて体が…震える………」

寒さに震えながら、明海はまたベッドにもぐり込んでしまった。



すると…





ピンポーン。




インターホンの鳴る音が聞こえた。

半分眠っているような状態であるのに、その音だけが鮮明に聞こえた。


明海「(誰……誰なの……来ないで……この前に来たのも…誰……?)」


明海は気分の悪さと同時に、恐怖も感じずにはいられなかった。

まるで自分の眠るタイミングに合わせるかのように鳴らされるインターホン。

そこに、誰がいるのか……。



ピンポーン。



明海「(…いや…やめて……もう…吐きそう…………)」


ピンポーン。


明海「(…やめて…来ないで……ああ…やだ……怖い………!)」


ピンポーンピンポーンピンポーン。


明海「(悪霊退散…悪霊退散…悪霊…㌶㌍㌫㌻㍗㌫㍊㍍㌘㌶㌍㌫㌻㍍㍗㌘㌶㌍㌫㌻㍍……)」





明海「っは!」




どのくらいの時間が過ぎたのか。

明海は自分が何をしていたのかさえ覚えていない。

ただ気づいたら、何事もない状態になっていたのだ。



明海「…………夢?」

なんとなく視線を向けると、電源が入ったままのノートパソコンの画面が目に留まった。


明海「あ…そうだ……メンテだったんだ……もう、終わってるかな………。
 あ、でも、その前に課題………いや、いいや。先にマビやろう!」



メンテナンスはすでに終わっており、本来、学校から帰宅するのと同じ時刻になっていた。



明海「はあ………なんか、ぜんぜん意味なかったなぁ………」

今日は月曜日。

多くの学校や会社で「週の初め」とされる曜日である。

しかしマビノギは違う。

この日は必ず不具合が起こるとされており、それを回避するための
メンテナンスを絶対に行わなければならない日なのだ。


10時ごろ…


明海「今日も学校休んじゃったなぁ……ってか、起きたのがこんな時間……。
 ……まっ、何とかなるよね。さ、マビしよっと」

こうして明海は連日、学校を休んでしまったことになる。

楽観的な彼女は悲観的なあすさんと違って、学校を無断欠席することへの罪悪感がなく、
平然とゲームで遊ぶことができるのである。


明海「あすさんは、めったに午前中にはINしないのよね~……ほら、いない。
 あ、でも郵便に何か届いてる。どれどれ……ああ、いつもの薪か」

明海は郵便箱から薪を受け取ると、すぐさまアイバのところへ向かった。


もちろん、アイバの錬金術師の家アルバイトのためである。


…明海は気づかない。

アイバのアルバイトをいくらこなしたところで、錬金術に近づくことすらできないということに。


明海「なんでアイバは薪が必要なんだろう? ああ…かまどに使う燃料か…」

ようするに明海はアイバに利用され、パシリになっているだけなのだ。

かまどなど薪の有無にかかわらず常に燃え続けている。

このアルバイトをする人がいないからといって、かまどが使用不可能になることなどない。



明海「ほら、アイバ! 薪を持ってきてやったぞwwwwwwww」
アイバ「明海さん、すごいです!最高です!」
明海「本当にすごいと思ってる?wwwwwwwwwwwwwwwwww」
アイバ「それ、何だろう?僕も知りたいです!」
明海「(;^ω^)……」

NPCと本気で話をしようとする明海。

アイバは単なるプログラムにしたがって「定型文」を返しているだけである。


明海はアイバとの「会話」を30分以上続けた。


明海「もう! なにこいつ! 会話をやめたい?
 あたし以外に、誰があんたの相手をしてくれると思ってるの!?
 なんなの? バカなの? 死ぬの?
 ほら、あんたの好きな緑の玉くれてやるわよ。味わって食べなさいよ」
アイバ「ウッ、寝るところがないんですか?」
明海「………」


突然、画面の上部に横長の黒帯が表示される。

そしてオレンジ色の文字で、臨時メンテナンスのアナウンスが流れる。


明海「アッー! そっか、月曜って定期臨時メンテがあるって話だった。
 初めてテロップ見たよ。ふむ………」


明海は仕方なくマビノギを終了し、臨時メンテナンスが終わるのを待つことにした。

「ずいぶん遅くまでいるね。……学校は大丈夫?」


現実の時間は0時を過ぎていた。


明海「いやwwwwww土曜日だからwwwwww」
あすさん「ああ、サーオィンか……。曜日の感覚がなくなってきた…」
明海「今から転生するし」
あすさん「!!!!!!!!!!!!」
明海「どうしたの?????」
あすさん「カード買わないと……」


マビノギに150年以上のキャリアを持つあすさんは、もはやスキルも装備も飽和状態であるから、
ゲーム内で自分が必要としているものなど一切ないかのようである。

変身スキルを習得しておらず、転生回数を増やしたからといって意味があるわけでもないが、
ただ2週間ごとの転生だけは決して怠ることがなかった。

そんな彼だからこそ、現実における曜日の感覚がなくなることがあり、
ファンタジーライフクラブの有効期限や、転生する予定時刻なども
すっかり忘れてしまう場合があるのである。



あすさん「よし、カード買った」
明海「あすさんは顔を変えないの?」
あすさん「もう100年以上、ずっと変えてないね」
明海「じゃあ、ずっとベーシックカード?」
あすさん「ベイリックシード」
明海「(?_?)」



多くの場合、転生でイリアのほうを選択するという。

転生フィールドともチュートリアルフィールドとも呼ばれるその場所には、
フィオンというアレクシーナの原形であるNPCが立っている。

転生した際にはフィオンから色指定染色アンプルを受け取ることができる。



あすさん「(゚Д゚)ハァ?」
明海「点滅キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!」
あすさん「ヽ( ・∀・)ノ●ウンコー色だった……」
明海「ヽ( ・∀・)ノ●ウンコー」


アンプルは10回まで選択することができ、ランダムで色が変わっていくが、
最終的には不本意な色をフィオンから押し付けられる形になってしまう。



あすさん「名前の前にアクセントをつけるっていう意味がわからん」
明海「         フィオン!wwwww」
あすさん「名前の前に位置するところとは…」
明海「ゥ─σ(・´ω・`*)─ン…」
あすさん「150年やっていても理解できないことがあるのだよ…」
明海「( ^∀^)ゲラゲラ」




こうして議論を交わしながら転生フィールドをあとにした。

「誰ですか…? こんな時間に…明海…?」


金曜日の正午過ぎ。通常はログインできないはずの時間帯である。



明海「(ノ゚Д゚)人(゚Д゚ヽ)おっはようおっはようボンジュール♪」
あすさん「(;゜〇゜)」
明海「臨時メンテ\(^o^)/オワタねw」
あすさん「(;゜〇゜)」
明海「今日は昼間からマビやるぞ!Σс(゚Д゚с」
あすさん「(;゜〇゜)」

あすさんは明海の行動を少し不審に思っていた。


あすさん「(´・ω・`)やあ 二日間こなかったね。異変でもあったの?」
明海「あー……」
あすさん「変異が起こりつつあるような……」
明海「(ヾノ・∀・`)ナイナイwwwww」

あすさんは極度の心配性なのである。


あすさん「最新型インフルエンザ?」
明海「(ヾノ・∀・`)ナイナイwww最新型てwwwwww」
あすさん「学校\(^o^)/オワタの?」
明海「(゚д゚ ≡ ゚д゚) 今日は休んだ」
あすさん「( ゚ω゚)フム…」
明海「インフルじゃないよwwwww」
あすさん「( ゚ω゚)フム」
明海「あたしは大丈夫だからwwwwww(・ε・)キニシナイ!!」
あすさん「(;・∀・)ダ、ダイジョウブ…?」
明海「さてと! アイバ行ってくる」
あすさん「それ、何だろう?僕も知りたいです!」
明海「aspirinさん、すごいです!最高です!」



「相葉明海」という名前の由来。

相葉はアイバを表し、
明海はAlchemy(錬金術)をもじったものであるという。

彼女は妄信にとらわれやすい家系に生まれ、宗教や健康食品をはじめとする数々の思い込みや、
ルネサンス期のヨーロッパで生涯を捧げた錬金術師の血をも受け継いでいるのである。



明海「ヽ(゚∀。)ノウェ 小さい緑の玉だって」
あすさん「ヽ(´Д`;)ノアゥア... 街灯をひたすらヽ( ・∀・)ノ┌┛ガッΣ(ノ`Д´)ノ」
明海「ヽ(`Д´☆ガッ■━⊂(・∀・)⊃━■ ガッ☆`Д´)ノ」
あすさん「( ・∀・)人(・∀・)人(・∀・ ) ガンバー」
明海「アイバめ。錬金術師なら自分で玉を作ったらいいのに(#^ω^)ピキピキ」
あすさん「シリンダーを作る技術があるのだから、玉も自作すればいいのにね」
明海「(*´・ω・)(・ω・`*)ネー」

明海が取り組んでいるのは、アイバの錬金術師の家アルバイトである。
「薪」または「小さい緑の玉」をただ集めて持ってくるだけの内容であり、
スキルとしての錬金術を用いる場面がまったくない。

そのため、ネクソンに批判が寄せられている。(ないけど)


明海「やっと10個集まったよ~~」
あすさん「ヾ(*・∀・)ノシ゚.:。+゚ ヤッタァ」
明海「報酬もらうよヽ(*´∀`)ノキャッキャッ♪」
あすさん「( ´・・`)何が出るかな?」
明海「ちょwwwwwwwwwwww牛乳1個てwwwwwwwwwwwww」
あすさん「(*´・ω・):;*.’:;ブッ」
明海「緑の玉が牛乳に変化する……!」
あすさん「(・`д´・;)ス、スゴイ・・・。」
明海「明海さん、すごいです!最高です!」
あすさん「m9゚(゚`∀´゚)゚9mプギャーッハッヒャッヒョ」
明海「( ^∀^)ゲラゲラ( ^∀^)ゲラゲラ( ^∀^)ゲラゲラ」
あすさん「牛乳(/◎\)ゴクゴクッ・・・」
明海「(/◎\)ゴクゴクッ・・・」
あすさん「(;゚д゚)ゴクリ…」
明海「上半身が太ましくなったwwwwwwwwwww」
あすさん「ふとい!!!!!!!!!!!!!!!」


明海はファンタジーライフクラブやペットカードなどを購入し利用しているが、
真剣に錬金術師を目指しているため、戦闘よりもアルバイトに夢中であった。

精神的なショックから立ち直れない相葉明海(あいば・あけみ)は次の日も学校を休んだ。


トイレに紙がなかったこと。牛岡先生のひどい一言。クラスメイトの冷たい反応…
いや、そもそも自分の体調管理が悪かったのだ──。


もともと快活な性格の明海は、物事をわりと合理的に考えることができ、
落ち込んでいてもすぐに立ち直るタイプなのである。



しかし、また次の日も学校を休んでしまう。



明海「あ~つまんない~……マビでもやろう…」

明海はベッドに寝転がったままノートパソコンの電源を入れた。


明海「ふふっ。平日の朝からマビができるなんて♪」

Windows XPの「ようこそ」画面が表示され、デスクトップのショートカットからマビノギを起動する。



明海「はぁ? 臨時メンテナンスのお知らせ…………」



木曜日の定期メンテナンスと月曜日の定期臨時メンテナンスは常識だったが、
今回は金曜日に臨時メンテナンスが行われているところであった。


明海「12時までかかるって……長すぎでしょ……もういいわ……」

明海はノートパソコンを閉じ、再びベッドにもぐり込んだ。





ピンポーン。




目を閉じて数分もたたないうちに、インターホンの鳴る音がした。

明海は学校をサボっているので、その来客に応じようとはしなかった。



ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。



明海「(……誰なの……うっさいわねぇ……うちには平日は誰もいないってのに……)」

明海が不審に思っていると、やがてその来客は去っていったようである。




そして12時が過ぎた。



明海「よしよし。延長はないみたいね。どれどれ……」


食事をするよりもマビノギを優先。

明海はすっかりマビノギに夢中になっていた。

「もぉ~どうしたぁ? それがお前の限界かぁ?」



冬の寒空のもと、校庭に雄牛のような力強い男の声が響き渡る。

高校の体育教師、牛岡の声である。



牛岡「ピピーーーッ! ちょっと待った! まず先生がお前たちに話をする」

牛岡の笛で体育の授業が中断され、生徒たちの動きが止められた。


牛岡「いいか、みんな。今から先生が大切な話をする!」
女子生徒「先生、トイレ行ってきていいですか?」
牛岡「行ってこい」
女子生徒「……ちょっと、時間、かかりますけど…」
牛岡「かまわん、行ってこい。ここで漏らされたらかなわんからな」
生徒たち「ププーッ ゲラゲラ…」
牛岡「静かに。みんな、心して聞くように」

牛岡「先生の名前は何だ? そう、牛岡だ。牛に岡と書いて牛岡だ。
 ちなみに先生の実家は酪農家で、小さいころは本物の牛と毎日たわむれていたものさ」
生徒たち「プーッ クスクス…」
牛岡「そう、俺は牛なんだ! 口ぐせだってモォ~だ。ほら、わかるだろ?」
生徒たち「ゲラゲラゲラゲラ…」

牛岡「それで俺は小学校のころからずっと、牛牛牛牛っていじめを受けてきたんだ」
生徒たち「……………」
牛岡「おい。俺の腹を見てくれ、こいつをどう思う?」
男子生徒「すごく……太ましいです……」
牛岡「な? わかるだろ? 俺は小さいころからこんな体形だったんだ」
生徒たち「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ…」
牛岡「それで足が遅くて、走ってもよくコケるし、野球をすればキャッチャーをやらされるわ、
 授業にはなかった相撲をやれと言われるわ、牛乳を一気飲みさせられて吐いたわ、
 もう、先生はいっそ寝込んで牛になろうと思ったくらいだぞ。いや、本気で」
生徒たち「ギャアッハッハッハッハ…」

牛岡「あのときの俺に比べれば、お前たちは恵まれている!」
生徒たち「………………」
牛岡「この俺がお前たちを教えているからだ!」
生徒たち「………………」


女子生徒がトイレから戻ってきた。


女子生徒「先生、トイレに紙がありませんでした」
牛岡「手で拭いたのか?」
生徒たち「プギャーッハッヒャッヒョ…」
女子生徒「い…いいえ……あの…もう…あっ………」











女子生徒は次の日、学校を休んだ。

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